ビジネスアジリティ・マニフェスト変革の実現のために

    ロジャー・バールトン,ロナルド・ロス,ジョン・ザックマン著

    (訳)植松隆,塩田宏治,清水千博,庄司敏浩1

    基本原則 

    すべてのイニシアチブは,明示的に

    マネジメント原則と整合しなければならない。

     

    I. 絶え間なく続く変革 

    1. ビジネスアジリティ実現のためには絶え間ないイノベーションと急速な変革に対応しなくてはいけない。

    2. 既存のビジネスは,継続的に進化する外部エコシステムにおいて,ビジネスの妥当性を維持するために継続的に変革されなければならない。

    3. 絶え間なく続く変化は避けられないが,既存のバリューチェーンが変革中に不要なリスクにさらされないように,変革しなければならない。

    4. 絶え間なく続く変革は,その影響,特に意図しない結果を予測し緩和するためのビジネス知識ベースに依存する。

     

    II. ビジネス・ソリューションのアジリティ

    1. ソフトウェアを高速に開発するだけでは,存続と成長のために十分ではない。そのようなソフトウェアは一旦運用すれば,意図しない結果を招くことなく,継続的かつ迅速に変更することが難しくなりがちだからである。

    2. アジャイルなビジネス・ソリューションの正しい評価基準は,ビジネス知識がどれだけその中に構成されているか,そしてその知識をどれだけ容易に変更または再構成できるかということである。

    3. ビジネス知識のビジネスプロセスと製品への活用は,タイムリーで,効果的で,選択的で,再現性があり,普及しやすく,追跡可能で,扱いやすくなければならない。

     

    III. ビジネス価値の創出 

    1. ビジネス価値は,ソフトウェアの開発や購入を含む,投資するすべてのリソース(金銭,時間など)を上回るリターンによって正当化されなければならない。

    2. ビジネス価値は拡張されたビジネス・ソリューションや,変化するビジネス・エコシステムに適応するための変革から生じるのであって,ソフトウェア機能だけから生じるのではない。

    3. ビジネス知識の不足や整合性の不足のために起こる,本来回避可能な廃棄とやり直しは純粋な無駄である。

    4. バリューチェーン全体でない,サイロ内に最適化された価値の創出は,カスタマー・エクスペリエンスと顧客が受け取る価値を部分的に最適化してしまうだけである。

    5. 価値創造の立案とマネジメントに必要なのは,バリューチェーン全体のデザイン,変更,管理,運用,分析に使用できるバリューチェーン・モデルである。

     

    IV. バリューチェーン 

    1. 市場に製品やサービスを提供するために必要なビジネス知識と作業は,既存の組織構造によって体系化されるのではなく,自然な依存関係(すなわちバリューチェーン)に従って体系化されなければならない。

    2. 市場はバリューチェーンの自然な境界を決定する。 バリューチェーンに貢献するステークホルダーはビジネスの内部にいるだけでなく外部にもいることがある。

    3. バリューチェーンにおける各ステークホルダーの役割は,他のステークホルダーのための制約を受け入れることを含め,バリューチェーン全体の最善の利益に役立つものでなければならない。 ステークホルダーの役割に関する評価項目,目標,インセンティブは,顧客に最も効果的なバリューチェーンの成果に整合させなければならない。

    4. コンセプト・モデルがなければ,サイロや製品パイプラインを排除し,バリューチェーンのエンドツーエンド・プロセスを改善するのは難しい。 必ずやり直しや遅延が発生する。

    5. バリューチェーンにおける依存関係の知識があれば,変化の影響が予測可能になる。そしてビジネス・デザインとソフトウェア実装イニシアチブの境界を明確にする自然な基準を持つことができる。

     

    V. ビジネス知識 

    1. ビジネス知識とはソフトウェア開発知識のことを言うのではない。

    2. ビジネス知識は,バリューチェーンの創出,運用,管理,変更,およびパフォーマンスの評価に必要なビジネスのすべてのデザイン特性を網羅する。 また,バリューチェーンが依存する基礎的ビジネス能力と,活用するリソース(財務,人材,施設,設備など)についても説明する。

    3. ビジネス知識を正しく効果的にコミュニケーションするためには,理解が正しく共有されなくてはいけない。その理解は,知識を保持し,再利用を可能にするコンセプト・モデルによって適切に管理されなければならない。

    4. バリューチェーンの下流部分のビジネス知識は,上流部分のビジネス知識に依存する。 最も再利用可能なビジネス知識はバリューチェーンの早期に作成され,その後ずっと再利用される。

    5. ビジネス知識は,自動化されたシステム,マニュアルでの使用に関係なく,すべてのビジネスルールを網羅する。そうすれば関連するあらゆる状況でダイナミックに指定,追加,修正,再利用することができる。

     

    VI. ビジネス知識マネジメント 

    1. ビジネス知識は,すべてのビジネス・ステークホルダーがアクセス可能な形式で明示的に表現されるべきである。

    2. ビジネス知識を効果的にマネジメントするには,明示的,アクセス可能,保護された,共有可能,再利用可能,保持可能,更新可能な形式でビジネス知識を提供する必要がある。

    3. ビジネス知識を効果的にマネジメントするには,正式な保管手段(自動化および手動化)とその最新性と完全性を維持するためのプロセスが必要である。

    4. ビジネス知識を効果的にマネジメントするには,物理的またはサイバー上の攻撃から保護する必要がある。

     

    VII. ビジネス知識ベース

    1. ビジネス知識ベースは,暗黙知(意識下の知識)を形式知(記憶された,共通の,共有可能な知識)に変換した最終結果である。

    2. ビジネス知識ベースは,ビジネスのプロダクトとプロセスを構成する際にデザインの決定に関する永続的な透明性を提供する。

    3. ビジネス知識ベースは,プロセスの自動化だけでなく,すべてのビジネス能力を組み立てるために不可欠である。

    4. ビジネス知識ベースは,ビジネス能力を見い出し再利用するため,および変革の影響をダイナミックに予測し緩和するために不可欠である。

    5. ビジネス知識ベースは,典型的なテクノロジーの実現ではなく,知識時代にとって必須のビジネス資産である。 したがって,それは一般的なマネジメントの範囲内にあるべきである。

     

    VIII. ビジネスの真理の単一の源泉 

    1. ビジネス知識ベースは,正式なビジネス・コンセプトの定義とビジネスポリシーの決定に関する真理の単一の源泉であり,すべてのビジネス関係者に常に利用でき,場所と時間に関係なく,瞬時にアクセス可能である。そして絶え間なく続く変革に対応するよう設計される。

    2. ビジネス知識ベースは,バリューチェーンの業務が依存するビジネスルール,ビジネス活動,その他の特性に関する真理の単一の源泉である。

    3. 変革を効果的に促進するビジネスの真理の単一の源泉として機能させるために,ビジネス知識ベースは,ビジネス能力またはビジネス・ソリューションに組み込むことができるすべての基礎的なビルディングブロック同士を分離し続けなければならない。(例えば,ビジネスルールからコンセプトを,プロセスからビジネスルールを,イベントや役割からプロセスを,など,そしてそれらをすべての技術的デザインの記述から分離する。)

     

    IX.ビジネス・インテグリティ

    1. 顧客や規制当局などの外部ステークホルダーに影響を及ぼす,一貫性がなく互いに衝突するビジネスの結果は,信頼を損ねたり潜在的な法的責任を発生させたりする。

    2. 契約上の義務と外部ステークホルダーに対するコミットメントを一貫して満たせなければ,顧客中心に重きを置いているとは言えない。

    3. ビジネスの結果の一貫性を保証するためのビジネス・コンセプトの構造を適切に設計すること(すなわち,コンセプト・モデルを設計すること)は,その後の不必要なデータベースとシステムの再設計および再構築を回避できるだろう。

    4. 一貫性のある行動と再現可能な業務上の意思決定を可能にすることにより,ビジネスルールは,ビジネス知識の主要な部分となる。

    5. データ品質の問題の主な原因は,コンセプト・モデルで規定されている認可されたビジネス定義とビジネス用語を一貫して使用しなかったり,ビジネスルールを忠実に遵守しなかったりすることである。

     

    X. ビジネス戦略 

    1. 業界で生き残ったり業界を支配したりする手段,そして新しい参入を阻止する手段は,ビジネス知識のマネジメントにますます依存するだろう。

    2. ビジネス戦略を実行し,ビジネスプロセスと製品を構成するために必要なビジネス知識は,特別なものであり貴重なものである。それは,競争優位を維持するためにますます不可欠となっている。

    3. ボットは,明示的なビジネス知識の必要性を補完し,強化するが,これにとって代わるものではない。

    4. ビジネス知識が不要な新しいビジネスチャネルまたはテクノロジーチャネルはこれからも出現することはない。テクノロジーは移りゆく。しかし,ビジネス知識は永続する。

    5. イノベーションと変革のペースを考えると,ビジネスアジリティの実現方法は今日のビジネスにとって極めて重要である。

     

    あとがき:このマニフェストのすべての原則は,理論的にも技術的にも,その実現を制限または禁止するものはない。ビジネス知識とすべての原則は,業務を継続したり,ソフトウェア導入などの新しい作業を行ったりするために,それらのすべてに完全に対応する必要はなく,常に実施しなければならないわけでもない。 時間がかかるだろうし,熱心に取り組む必要があるだろうし,忍耐も必要だろう。 すべての原則は,概念的,論理的および物理的に確立されている。これらの原則を実現するために必要な唯一の事柄は,それらを実践に移し,新しい生き方として,新しいパラダイムとして,繰り返し,段階的に,献身的に実現することをコミットすることである。 それらを無視するのは,ますます動的で複雑なリスクの高い環境において,いかにビジネスを成功させるのかということよりも,ソフトウェアをより迅速に構築することの方が重要だと言っているようなものである。

    誰かがこれをやろうとしている...それはあなた!!

     

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    [1] コンテンツへのインプットを提供しマニフェスト・ドキュメントのセットを構成してくれたGladys S.W. Lam と、完成するまで作業の面倒を見てくれた Sasha Aganova に感謝します 

    © Business Rule Solutions, LLC. 2017.                                                                                          

    © John A. Zachman, Zachman International. 2017.

    © Process Renewal Consulting Group (2015), Inc. 2017.

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