一般マネジメント原則

    ビジネスアジリティ・マニフェストのためのビジネス基盤

    ロジャー・バールトン,ロナルド G. ロス,ジョン A. ザックマン1

    (訳)植松隆,塩田宏治,清水千博,庄司敏浩

     

    序文:「ビジネスアジリティ」という名称は,ソフトウェア開発や組織の在り方に関して使われる「アジャイル」という言葉とは遥かに異なる次元の意味合いを持つ。ビジネスアジリティ」は,劇的に変化し,複雑で,かつ不確かな経営環境における妥当性を維持するために,ビジネスそのものの概念や構造をダイナミックに修正する能力を描く。この能力には,ビジネス変革が実現された際に業務を継続するために,実行手段のダイナミックな再構成,成熟度が低いものと高いもの,手動のものと自動のもの,新規のものと既存のものを必ず含めるべきである。本一般マネジメント原則は,このようなアジャイルでダイナミックなビジネスを創出するための検討ならびに計画的適用に極めて有効である。

    I. ビジネス変革を推進する - 最小限のコスト,最小限の時間,最小限の中断,最小限の失敗リスクでのビジネス変革(”変革”には市場の変化,規制の変化,技術の変化,労働市場の変化,戦略の変更,その他を含む)

    A. 独立変数を分離したビジネス・デザイン:
    継続するビジネス変革を柔軟に支援できるようにするため
    例)意図しない結果や他の関連する構成要素への悪影響を発生させることなく,単一の最小ビジネス・コンポーネントを変革する能力

    B. 様々な場面で再利用できるよう意図的に設計されたコンポーネントによる迅速な変革の実現:
    開発コストおよび変革実現に必要な時間を最小限に抑え,不備と欠陥に起因するやり直しを排除するため

    C. ビジネス知識ベースへのアクセスと分析:
    提案された変革の影響を予測し緩和するため

    II. 価値を創造する - 顧客,株主,コミュニティ,後継者などへの価値

    A. ビジネス・エコシステム分析(競合分析を含む)による戦略策定:
    株主,コミュニティ,スタッフ,後継者などを考慮しつつ,特に顧客にとっての価値を創造するため

    B. 受注組立生産(ATO)能力の採用:
    市場の需要に応じてカスタイマイズされた製品/サービスを迅速に創出するため

    C. ビジネス知識ベースへのアクセスと分析:
    ビジネスポリシー,インベントリ,プロセス,流通ネットワーク,責任,およびタイミング・サイクルにおける研究とイノベーションを目的とする。そして常にビジネス内ステークホルダーのみならずビジネス・エコシステム内ステークホルダーにも配慮する

    III. ビジネス戦略を実行する - ビジネスが戦略的意図を確実に実現する

    A. ビジネス戦略の決定とポリシー:
    戦略的意図を実務に正確に反映し実現することを保証するために,明示的に記録され,説明される

    B. すべてのビジネス変革:
    影響を把握し適切に適応するために,ビジネス知識ベースに記録され,ビジネス戦略と整合される

    C. テクノロジーやその他リソースの開発と実装:
    適切な行動のためにビジネスポリシーの決定を強制し,業務におけるポリシー違反を検出する

    IV. セキュリティを提供する - 人と資産のための物理的セキュリティおよびサイバー・セキュリティ

    A. 内部および外部の役割の割り当てと役割権限分析:
    データ,ビジネスプロセス,ビジネスプロパティ(施設,技術など)を含むビジネスリソースまたは独自のビジネス知識の閲覧,アクセス,使用,変更などを許可する

    B. 物理的隔離とセキュリティ保護:
    人,知的財産,およびその他の重要資産を適切に保護する

    C. サイバー攻撃やその他の脅威からの保護:
    ビジネス上受託者責任を負っている顧客情報や,その他の機密情報と知識に対して

    V. 持続可能性を保証する - ビジネス・エコシステムの変革における持続可能性

    A. 非常に重要な好機および脅威を見極めるための外部のエコシステムと,それらの好機および脅威に関連した内部の強みおよび弱みの継続的な分析(SWOT)

    B. SWOT ビジネス知識ベースの継続的なアセスメント:
    適切な投資と一連のアクションを特定し発展させるため,そして強み,弱み,機会,脅威に取り組むのに適切なリソースを獲得するため

    C. すべてのビジネス上の方針の継続的な観察と監視:
    ビジネス上の方針に確実に沿うように

    VI. ビジネス・リスクを管理する 金銭,顧客,資産,信用,名声,コンプライアンスなどを失うリスク

    A. ビジネス・デザイン:
    プロセスや方針やビジネスルールが十分に整備されていないことによる潜在的な不整合を含む実質的にコントロールされていないリスクを,排除したり軽減したり回避したりするため

    B. ビジネス全体の冗長性の排除:
    政府,顧客,訴訟の原告など外部の機関によって発見されたときにトレーサビリティの欠如やぜい弱性や法的責任を追求されかねない

    C. ビジネス知識ベースの分析:
    ビジネス・デザインの論理的な欠陥や不整合を発見するため,その根本原因を見出すため,そして適切なソリューションや緩和策を策定し実行するため

    VII. 適切なイノベーションやコントロールを奨励する 破壊と最適化とのバランス

    A. マネジメント・システムの調整:
    ビジネス・デザイン,製品やサービスの開発,ビジネス戦略や方針などの領域におけるオープン・イノベーション(創造性とデザイン決定の分散化)や最適化(コントロールとデザイン権限の集中化)を奨励するため

    B. ビジネス知識ベースへのアクセスと分析:
    提案された変革の影響と,プログラムマネジメントや変革の定着化の具体的な計画策定の影響を特定するため

    VIII. コラボレーションを可能にする ビジネスの中での内部コラボレーションと他のビジネスとの外部コラボレーション

    A. ビジネス・デザインのスコープを広げることに注意を払うこと:
    最終的な顧客や市場までを含めたバリューチェーンの価値を届けることに携わるすべての人々を含める

    B. ビジネス知識ベースへのアクセスと分析:
    相補う業務を支えるネットワーク全体の最適なデザインを保証するために,それぞれが独立した責任を担うビジネス・ユニット間の潜在的かつ必要な相互作用を特定するため

    C. 途切れることのない持続可能なイノベーションと,プロダクトやサービスの創造:
    変化している状況下で製品やサービスの利用者に対する価値を失わないようにしつつ,独立しながらお互いに協働しているビジネス・ユニットによる

    IX. リソースを最適化する 共有と再利用を通して投資代替案を特定し,その適切性を評価し,リソースを最大限に活用する。

    A. 外部のビジネス・エコシステムのアセスメントとビジネス知識ベースの分析:
    ビジネス戦略のゴールを最も満たしパフォーマンス・ギャップを最も埋める投資対象候補を特定し,その適切性を評価し,定量的に評価するため

    B. 様々な変革の実現で再利用できるようなリソースのコンポーネント化とデザイン:
    ビジネスの変革を実現するための開発コスト,リスク,ムダな作業,時間を削減するため

    C. メカニズムと能力の確立:
    リアルタイムに近い作業を行う環境下において通常の業務,ビジネスルール,そしてそれらを支える組織能力を測定し,監視し,それらに容易に適合させる

    X. 知識を管理する 知識の優位性を得るためのビジネス知識を管理する

    A. どのようにビジネスを遂行したらよいかを伝え管理するために必要な,ビジネスの定義,説明,ルールのセット,すなわちビジネス知識を段階的に積み上げ,繰り返し洗練させること

    B. ビジネスをどのように最適に変えられるかを分析すること:
    イノベーション,改善,リスク軽減,サイバー・セキュリティ,リソースの割当,競争優位性などのため

    C. 変革の影響を理解すること:
    最適な変革の決定を行うために必要な方針,プロセス,ビジネスルール,リソース,その他のメカニズムにおける

     

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    [1] コンテンツへのインプットを提供しマニフェスト・ドキュメントのセットを構成してくれたGladys S.W. Lam と、完成するまで作業の面倒を見てくれた Sasha Aganova に感謝します

    © Business Rule Solutions, LLC. 2017.                                                                                                        

    © John A. Zachman, Zachman International. 2017.

    © Process Renewal Consulting Group (2015), Inc. 2017.

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